雇用調整助成金がなかなか支給されない本当の訳

2020/05/03 ブログ
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新型コロナウィルス対策の補正予算が成立しました。

 

雇用調整助成金の交付実績が低すぎる

当然の話ですが、一人当たり10万円の給付金、雇用調整助成金、中小企業者等への持続化助成金に関心が集まっています。

特に雇用調整助成金や持続化助成金について、申請手続きの煩雑さや交付決定や実際に交付されるまでに時間がかかりすぎることが問題になっています。今、自粛で仕事ができずに、明日どころか、今日のお金に困っているのが現実ですから、これも、当然の話です。

政府は、補助率や交付限度額(雇用調整助成金では、1日当たり8,330円)の引き上げや交付手続きの簡素化に力を注いていると説明していますが、改善されたとは実感できないのが現実です。

 

補助金を使うには厳しい規則が定められている

普通に考えれば、補助率や交付限度額を引き上げれば、十分なお金が労働者や事業者の手元にわたると考えるのは当然です。

ところが、大きな落とし穴があるのです。なぜ、申請を受け付ける窓口の職員が申請書類を精査するのかということを考えると、答えが見えてきます。

補助金、助成金は、国の予算のくくりでは補助金等とされていて「補助金等の予算の適正化に関する法律」(以下「適正化法」)という法律の適用を受けることになっています。適正化法には、公正かつ効率的に使用されるよう努めなければならない、あるいは誠実に補助事業を行うように努めなければならない(適正化法第3条)と定められているほか、交付省庁の指導に従うことや帳簿の整備など、適正に使用されその確認のための事務作業が求められています。

それが守られなければ交付の取り消しや補助金の返納を求められる場合があります。最後は、「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」ということになります。

この厳しい規則がネックになっています。

 

皆さんの知らない落とし穴

要は、きちんと使わなければ、いったんもらった補助金を返さなければならなくなるし、場合によっては、懲役になったり100万円の罰金を払う羽目になったりするのです。なので、窓口の職員は、「そうなったらこまるでしょ?」と、親切心から(若しくは、職務に忠実なので)、きちんと書類をと整え、使い方について、厳正に書類や帳簿のチェックを行うのです。

では、その手続きはどうなっているのでしょうか?

これら補助金等が実際に交付される際には、個別に「交付要綱」といわれる取扱要領を定めますが、この要綱は当然適正化法に則って細かく規定がつくられています。

これは、事務方が使うマニュアルのようなもので、各省庁が交付の実態を踏まえてつくりますが、その過程で財務省のチェックが入ります。そしてのチェックは、財務省の予算係ではなく、補助金係が決定権を持っていて、各省各補助金間の横並びの審査を行っています。

その結果、ほとんどすべての補助金等が、ほとんど同じような内容になってしまい、極端に言えば表紙の「○○〇交付要綱」の○○〇以外は、同じ内容といってもいいくらいなのです。

今の事態になお拍車をかけているのは、度重なる行政改革で職員の削減が行われ、合理化の名のもとに、窓口業務の外注化が進んでいることです。(※参照)

 

せっかくの予算が使われない

話はこれで終わりません。外注の窓口担当者は、このマニュアルをきちんと守ります。そうなると、この助成金が予算化されている意味とか、期待されている効果などではなく、いかに不正の使用を防ぐか、正しく使われるか(つまり、マニュアルに合っているか)という点が重視されます。

交付要綱(マニュアル)がそのような内容になっていないのですから、当然です。結果、書類が膨大難解になり、場合によっては、もらったお金は召し上げられる。せっかくの予算が使われずに余ってしまうということになるのです。

税金を使うのですから当然といえば当然なのですが、税金を使い慣れている役人の世界で常識ですが、役人の常識は、世の中の非常識。特にこの様な非常時では、なおさらです。いつも通りのマニュアルでは、せっかくの緊急措置も、補助率や交付限度の引き上げも絵にかいた餅になってしまいます。

 

他の経費も同じ構造

この要綱のチェックは、適正化法の対象以外のものについても行われ、チェックは適正化法対象補助金等の交付要綱とほぼ同じ基準で行われるため、実質的に補助金、負担金、利子補給金、委託費のすべてが適正化法または同等の規制を受けることになってしまっています。例えば、中小企業を対象とする今回の持続化交付金も同じ構造になっていて、雇用調整助成金のハローワークの窓口に相当するのが、地域の商工会議所だったりします。この様に、ウィルスの封じ込めのためのワクチンや薬剤の開発、機器の開発等の予算も、ほとんどすべてが同じ仕組みで使われているのです。

交付要綱は、その交付の実態に合わせて各省で作成するのですから、財務省のチェックはあるにしても、予算の中身や趣旨、目的を理解している各予算係や各省の裁量幅を拡大すべきなのです。

 

そもそも適正化法では

政治家やマスコミだけでなく、世の中の方々、ひょっとしたら役人の方々も気づいていない問題があるのです。

適正化法第2条には、

「この法律において「補助金等」とは、国が国以外の者に対して交付する次に掲げるものをいう。

一 補助金

二 負担金(国際条約に基く分担金を除く。)

三 利子補給金

四 その他相当の反対給付を受けない給付金であつて政令で定めるもの」

とあります。

今回、この厳しい法律が手供されると明記されているのは、「補助金・負担金・利子補給金」だけであり、問題とされている助成金は明示されていません。

少なくとも、政令で対象とされているか、もしくは、交付要綱などのマニュアルで同様の取扱いとされているのです、

今回の新型コロナウィルス対策で令和元年度予備費、令和2年度当初予算、同補正予算の大きな部分を占めるのは、法令上の位置づけは同様の経費です。

 

政令、交付要綱は各省の権限

本来、政令は各省で決められます。ましてや、マニュアルである交付要綱はなおさらです。

霞が関の役人の皆さんは、この点を十二分に考えて、政令、交付要綱の改訂をおこなうべきです。そうすれば、苦労して作り上げた予算が、使い残されることもなく、趣旨にあった執行が確保されます。不用額の説明も不要で、決算書の作成も楽です。

何より、世の中のためになる。皆さんが入省の時の思いを叶えるのは、今なのです。

 

※ハローワーク職員数(昭和42年;14,606人⇒平成29年;10,536人)