香港国家安全維持法の施行➀~一国二制度編~
香港国家安全維持法が(以下「国家安全法」)6月30日に施行された。
翌日の7月1日には、男女10人が同法容疑で逮捕され、抗議集会に参加した360人が拘束された。
これに対し、前宗主国のイギリスは、一国二制度を骨抜きにするものだと反発、イギリス統治時代の住人に対し、イギリスの市民権をあたえるなど移民規則の変更を発表している。また、アメリカも、中国共産党当局者に対するビザ発給の制限を発表するなど反発を強めている様子だ。この様に、日本も含む主要各国(ロシアは、内政問題とする立場)は、反発を強めている。
一方の中国は、当然のことながら、意に介していない。7月6日には、国家安全法違反での逮捕者の初公判、7月8日には、中国本国の公安職員が駐在する治安機関「国家安全維持公署」を開設、幹部職員と記念撮影に応じる林鄭月娥行政長官の姿が配信されたるなど、素早い動きを見せている。
そもそも、一国二制度とは、中国の社会主義と香港の資本主義という2つの制度を中国国内に併存させるということ。
遠藤誉氏によれば、国家体制としては、香港は中国共産党の枠組みの中に置かれることが前提になっている(香港基本法)。中国本土と同様の規定を香港に適用させる国家安全法の施行は、まったくの内政問題なのだ。そのうえ、今更言うまでもなく、中国経済は、どっぷり世界経済に組み込まれていて、今や、どの国よりも資本主義的なのだ。その意味では、いまや、中国自身が、全体が一国二制度を体現しているといえるのだ。
他方、すでに経済システムとしての意義をなくしてしまったにもかかわらず、権力機構としての中国共産党は国家に君臨し、社会主義体制を掌握している。例えば、北朝鮮の正式名称が「朝鮮民主主義人民共和国」であるように、(中国の正式名称は「中国人民共和国」)国家の形式として、民主主義制度を採用している。ただし、国家は、共産党の指導の下に、政策を実行している。従って、実態として、このような民主主義は形骸化しやすい、または、形骸化している。
社会主義の実態といえば、スターリンに象徴される監視、密告など個人の権利の蹂躙であり、新疆ウィグル、チベットなど戦後のどさくさに占領した少数民族に対して、今なお、実際に取られている統治政策であり、中国共産党の真の姿といえるだろう。
天安門事件を思いだすまでもなく、基本的にはそれらの地域と同様のことが中国国内で起きている。今、香港で起きていることは、香港だから見えるだけであり、中国の人権状況は、まったく変わっていないのだ。
一国二制度は、1997年に宗主国イギリスから香港の返還を受けるときに、中国が1947年まで維持するとする国際約束だが、この二制度とは、社会主義と資本主義であって、これは当初から内政問題であったことは、先述したとおりで、社会主義と民主主義のことではない。
それを言うと、中国も、北朝鮮でさえも、「我々の国は民主主義国家である。」と反論するだろう。
その証拠に、今回の国家安全法について、ロシアやキューバは賛成してる。
ということで、コロナで世界が落ち着かない時期に、(中国共産党創建99周年(7月1日)に合わせる意図があったと思うけれど)、香港市民や国際社会が一国二制度とは法的にどんなものなのか、そして、(社会主義流)民主主義下で、人々がとるべき行動とはどのようなものなのかを(人民が守るべきものは、国家であること)を知らしめるべく、確信を持って行っていることなのだ。
コロナはもちろん大事だが、だからと言って忘れてはならないことなのだ。
「非難をすれば、改めるのではないか。」などと、ナイーブな対応だけは禁物なのだ。
香港国家安全維持法の施行②~政治編~に続く