香港国家安全維持法の施行③~経済編~

2020/07/20 ブログ
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今後、香港は、中国は、どうなるのか?経済的側面から見てみよう。
香港を手に入れた中国は、経済経済発展を続け、世界の工場としてアメリカに次ぐ経済的地位を得ることができた。
香港返還の1997年における香港、香港のGDPは180億ドル(世界第27位)、中国本土を含むGDP1,140憶ドルの15.5%を占めていた。その年の中国本土といえば、世界第7位の経済規模(9,650憶ドル)。今や、中国は世界第2位の経済大国となり、その中で香港の占める割合は2.6%となり、中国全体における位置づけは相対的に低下しているといわざるを得ない。

香港の一人当たりGDPは48,451ドルで世界17位(日本39,304ドル、26位)で、統計上は裕福な国だ。しかし、貧富の差は大きく、富裕層の所得は、貧困層44倍、ジニ係数※は0.537で、堂々の世界12位、アジアでナンバー1のひどさなのだ。そのうえ、格差は広がる一方、加えて、近年は失業率も上昇していて、直近の統計では5.9%となっている。(日本は、コロナの影響で上昇傾向にあるが、直近で2.9%)
こういった、香港市民の日常的不満が逃亡犯条例や国家安全法に象徴される中国当局に措置よって、将来に対する不安につながっているのではないだろうか。
次に、海上物流をみてみる。コンテナ貨物取扱量の世界ランキングの推移をみると、香港返還前には、香港が世界第1位で、トップ10には、中国本土の港湾の名前はなく、欧米の港が5港ランクインしている。しかし、直近では、上海が1位を維持し続けているのをはじめ、中国本土の港湾6港がランクイン、中国は世界の工場として大量輸送にメリットがある海上物流の主役の座を占めていることが分かる。ちなみに、我が日本は、返還前に神戸と横浜が6位と10位なのだが、この10年間のランクインはない。
トップ10の港湾は、ほとんどがアジアの港であり、ユーラシア大陸東岸に位置し、黄海から東シナ海、南シナ海に面しおり、この地域での港湾間の競争激化している。海上物流の多くが通過するこの海域の重要性は一目瞭然であり、前回述べたように中国がこの海域に触手を伸ばす意図も見えてくる。

香港は中国本土と国外を結ぶ中継貿易で中国の発展を支えている。中国の経済基盤が拡充されるにつけ、中国本土の港湾が自ら物流を担うようになり現在の姿になっている。
GDPや海上物流からみると中国にとって、香港の地位は、相対的に後退している。そのうえ、欧米流民主主義や自由を標榜する香港を利用価値はないと考えたのかもしれない。
しかし、もう一つの物流、航空物流を見てみると、香港はトップの座を守り続けている。
こちらは輸送時間と輸送量についての制約からか海上物流に比べて地域的偏りが少ない。また、海上物流では、3位位につけていたシンガポールはベスト10から外れている。
香港については、コロナウィルスの影響を受けて航空需要全般が減少している中でも、マスクや医療用品などコロナウィルス関連商品等を中心に、貨物取扱量は逆に増加している。
航空物流では、香港の中継貿易における役割は十分に存在感を示している。

経済面では、国家安全法の影響が目に見えてくるにはもう少し時間がかかるだろう。
むしろ、コロナウィルス後に向けた、中国のしたたかな戦略の一端を担う香港の姿が印象に残る。しかし、華やかな世界経済のプレイヤーの一人を演ずる香港が抱える構造的問題が透けて見えるのである。
香港国家安全維持法の施行④~まとめ~に続く

※ジニ係数:所得の格差を現わす指標。大きいほうが所得格差は大きく、小さいほうが格差も小さい。「1」では、格差最大、「0」は格差なし。