香港国家安全維持法の施行➃~まとめ~

2020/07/22 ブログ
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国家安全法が施行された香港について見てきたが、今後、香港はどうなっていくのだろうか?そして、香港を手に入れ経済的、政治的そして軍事的に強大化する中国はどうなるのだろうかを考えたい。
昨日の夕刊は、トランプ大統領がこれまで香港に適用してきた優遇措置を撤廃する大統領令に署名したと報じた。
この優遇措置に象徴されるように、香港は一国二制度のもとでいろいろな優遇措置を得てきた。これまで述べてきたように、この香港の国際的地位を利用して、香港も中国も発展を続けてきた。
もちろん、香港の国際物流における特有の機能によって中国だけでなく世界経済にとっても大きなメリットがあるからこそ維持されているものなのだ。
香港には物流だけではなく株式や通貨、金利、債券の国際的取引を行う機関が集まっている。
この様な機能を持つ都市は国際金融センターとよばれる。
香港は、もちろんこの国際金融センターの有力な一つであり、国際物流だけでなく、金融面でも、中国、世界の経済を支えている。
イギリスのシンクタンクZ/Yenは、このような都市の評価(世界金融センター指数(Global Financial Centres Index, GFCI))を発表している。最新のランキングでは、香港は順位を落とし6位になっている。上海、北京もランクを落としトップテン圏外へ陥落している。

第1回の一国二制度の回で、中国はすでに資本主義であると述べたが、それは表面上の問題であり、政治制度として社会主義の下では、本来の意味での資本主義はなりたち得ないのだ。香港には、世界中から企業が進出しており、それらの企業や従業員の自由な経済活動、生活が担保されていることが前提でなければならないからだ。
先日(7/15)発表された香港の日本企業に対するアンケート結果では、国家安全法について、国家安全法施行以来、香港に進出している日本企業のアンケートでは、80%以上が国家安全法について「懸念している」、14%が「撤退も検討」すると回答している。
国家安全法の施行によって、この前提が崩れてしまい、香港だけではなく上海の評価もダウンすることになったということは、中国に対する信頼が崩れてしまったといわざるを得ない。
と、言うより、中国は一国二制度の衣の下の刃を取り出したのであり、はしなくも、世界は2047年以後の世界を目撃することになったのである。この刃は、共産主義のDNA=領土的拡張主義と同根であり、中国の世界戦略そのものである。中国の経済構想「一帯一路」も同様であり、日本やEUなど多くの国が参加を表明しているこの構想が、実行段階に至る前に施行された国家安全法のおかげで、中国という国の姿がより明確になったのだ。
香港の経済的地位を支えている大きな力は、ドルペック政策だ。トランプ大統領は全く好きではないが、小泉前首相と同じで中国政策だけは(いまのところ)評価できる。トランプ大統領が香港に与えていた優遇策には直接影響を受けるわけではなく、当面、ドルペッグ政策は維持されると思うが、今後、裏付けとなる元の通貨価値をペッグ内に維持するのは相当困難を伴うだろう。
この様に、国家安全法以降、香港だけでなく中国の経済環境は厳しさを増すことになるだろう。
これは、チャンスというより自由主義諸国における世界第2の経済規模をもつ日本の義務といってもいいのだが、アジアにおける世界金融センターとしての役割を果たし続けなければならない。
世界経済は常に連動して24時間動き続けている、ニューヨークやロンドンが世界の金融センターとして重要な地位を保ち続けているのは、地理的理由がある。ニューヨークとロンドンの時差は5時間、勤務時間を8時間と仮定すると、ニューヨークとロンドンの金融機関の稼働時間を連続することができからだ。しかし、この2都市だけでは24時間連続して稼働させることはできない。両者の稼働していない夜に昼間の時間である立地(=アジア)に存在する必要がある。
そして、ロンドンとニューヨークに匹敵するヒト・モノ・カネ・情報の集積と流通がある東京はこの地域に立地し、既に、両都市ともに世界金融センターとして世界経済を動かしてきた実績があるのだ。近年、香港やシンガポールをはじめとするアジア地域の都市は、税制上の優遇措置や空港や港湾をはじめとするのインフラ整備などの施策を進めることによって国際金融センターとしての条件を整備して評価を得、ランクを上げてきた。しかし、香港をはじめとする中国の各都市は、今回の国家安全法の施行によって、最も重要な基盤であるヒト・モノ・カネ・情報の自由な流通が棄損されることがはっきりした。また、税制等の施策によって評価を上げるアジアの各都市はヒト・モノ・カネ・情報の裏付けのない不安定性を同じく中国の国家安全法の施行が明らかにしたのだ。
もちろん、東京においてもアジアの各都市のように制度面やインフラの整備、金融機能の改革は行うべきだし、東京だけにとどまらず我が国全体として、ポスト香港、ポストコロナの世界経済の大きな役割を戦略的に果たすことを早速進めていくべき時ではないだろうか。